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2012年2月 7日 (火)

光文社闘争を記録する会 著
『光文社争議団
出版帝国の“無頼派”たち、2414日の記録
立読み版

書名: 『光文社争議団 出版帝国の“無頼派”たち2414日の記録』
価格: 1000円

Small

著者: 光文社闘争を記録する会
(メンバーは川本武、宍戸茂、柿田隆、福山健、野村豊秋、小出忍、千葉昭、上野征洋、田村哲夫、田中修輔、小野俊一、宮木信幸、小野寺照夫、早川憲司で、いずれも本書に登場します)。

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立読み版は、「序」「目次」「プロローグ」です。
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『光文社争議団』_立読み版

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【立読み版】

光文社争議団
出版帝国の“無頼派”たち2414日の記録

光文社闘争を記録する会

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  序

 一九七六年一一月、光文社闘争はひとつのピリオドを打った。争議がはじまってから、ほぼ七年たっていた。
 争議が終わったとき、さまざまの〈批評〉が私たちの周辺に押し寄せてきた。日刊紙、週刊誌、ラジオ、総合雑誌、労組などの機関紙、と多様なメディアが光文社闘争を取り上げた。近しい人からはもちろん、遠い人からも〈批評〉が寄せられた。
 その多くは、善意からだろうが、過分に私たちを評価するものであった。「労働運動史上、稀有な勝利である」「これからの労働者運動に一つの方向性を与える」といった調子である。
 私たちは「いえ、それほどのことでは……」と口をモグモグさせ、曖昧に答えるよりほかない。衒(てら)うためにそのような態度をとるのではなく、多様な角度から射出されてくる〈批評〉にとりまかれ、くすぐったい思いをしつつ、立ちすくんでいる、というのが実感なのである。
 だが、口ごもりつつも、私たちの一人一人には「言葉」があふれていることも確かである。七年も争議を持続していれば、肌にまとわりついた感慨のひとつやふたつは必ずあるし、忘れ得ぬエピソードもある。その多くは未整理のままに……。
 このドキュメントは、その未整理の感慨やエピソードを、集録したものである。未整理ということは、おそらく他者を意識せず、自己に向かって「吐き出す」ような形でしか、感慨やエピソードを語れないことを、意味するのではなかろうか。
 したがって、本書は、労働組合が「正式」にまとめる、いわゆる総括とは異質のものである。各章を担当した者が、それぞれのスタイルで、争議の七年間について「吐き出し」た「言葉」を集めたものであり、通読した場合、若干の重複などもあるかもしれない。当事者でなければ了解できぬたぐいのディテールも合まれているだろう。
 また、光文社闘争は「なぜ起きたか」については語ることを略し、「なにが起きたか」についてのみ記述した。そして、光文社闘争を七〇年四月一六日の無期限ストライキから、七六年一一月二三日の協定書調印に至る二、四一四日間の闘いと限定したため、闘争前史にはほとんど触れていない。不充分のそしりはまぬがれえないが、これらの点をご寛恕の上、本書とおつきあいいただければ、と願う。
 本書を分担執筆した「光文社闘争を記録する会」のメンバーは以下の通りである。川本武、宍戸茂、柿田隆、福山健、野村豊秋、小出忍、千葉昭、上野征洋、田村哲夫、田中修輔、小野俊一、宮木信幸、小野寺照夫、早川憲司。
 ところで、これはいうまでもないことだが、光文社闘争は第一ラウンドを終えただけで、本質的には持続されている。その持続の中でしか、今のところ未整理に「吐き出し」ている「言葉」を整合していく方法は見出せない、と思う。(神戸明)

光文社闘争を記録する会

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※テキスト版では「目次」は割愛いたします(PDF版にはあります)。

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 プロローグ

 一九七六年一一月二三日。午前一一時。地下鉄茗荷谷駅にほど近い茗渓会館の一室に、二六名の男女が長方形のテーブルをはさんで向かい合っていた。
 入口のドアを開いて右側に、ダークスーツの男たちが一二名、居並ぶ。小保方宇三郎光文社社長、竹内桃太郎会社側主任弁護士を中央にして両側に全役員、それに総務部長代理と元日経連法規部の労務顧問が加わる。
 対する左側には、女性を含む一四名。三労組の各委員長をはさんで、背広、ブレザー、ジーパン姿と色とりどりの団交委員。その中にまじって三角忠・光共闘(光文社闘争支援共闘労働者会議)議長、岡邦俊、古瀬駿介の両弁護士。
 真ん中のテーブルには純白のクロースがかけられ、その上には白いバラがこの日のために生けられていた。
 バラの花は「美と愛情」という花言葉をもつ。だが、この言葉ほど、対坐する両者の関係にとって無縁な言葉はないだろう。両者はこの七年間、深く憎み合い、激しく争ってきた。純白のテーブル・クロースをめくれば、そこには、罵声とび交うなかで流されたおびただしい血と汗をみることができるはずだ。
 ピケ回数三四〇回。そのなかで負傷した組合員の診断書五三枚、実際の負傷者数は、確実にこの五倍にはのぼるだろう。よほどの怪我でなければ組合員も支援労働者も診断書を取ろうなどとはしない。さらに、争議期間中三名の組合員がこの世を去っていった。ひとりは大衆団交直前に、ひとりはデモのあった夜に、ひとりは闘争資金のためのアルバイト中の事故死だった。そのうえ、二名の支援労働者の死に直面した。いつもスクラムの最先頭で威勢のいい声を張りあげていた、ともにまだ若い女性の骨をあいついで拾わねばならぬ運命など、だれが予測しえただろうか。そして、被逮捕者総数五七人。公判はいまだに続いている。
 これが光文社闘争の現実だった。
 重い沈黙がただようなかで、小保方社長がからだをグッと前に傾け、口を開く。
「六年余にわたる争議が解決できたのは、お互いの誠意によるもので、とくに関係諸先生のご尽力に感謝したい。今後は、協定書の主旨を踏まえ、お互いに敵視したり、従業員同士、いがみあったりしないようにやっていきたいと思います」
 一言一句を慎重に選びながら、眼鏡ごしにじっと、対するものたちの表情をうかがう。三労組側の“関係諸先生”である両弁護士はまったくの無表情で、そんな彼を見返す。
 小林武彦総務部長が協定書を読みあげる。
「第一条、会社は本協定の主旨に則り、本日付をもって、光労組、記者労組幹部八名に対する懲戒解雇、記者労組員二〇名ならびに臨労組員九名に対する解雇を撤回する……」
 以下、六カ条にわたる協定書と三カ条からなる覚書の内容が、事務的な口調で読みあげられていく。記者労組員と臨労組員に関する就労時の賃金を明示してあるところでは口調を落とし、数字を棒読みにしながらひとりひとり確認していく。覚書の最後を読み終え、「それでは、署名、捺印に入りたいと思います」という彼の声は、かすれていた。
 各二通の協定書と覚書が、社長と三労組代表の前におかれる。署名箇所にはすでに代表者名が印刷されていた。総務部長代理が押印の順序を説明する。
 まず、小保方社長が協定書の末尾に、社名入りの角判と代表取締役印の丸印を押す。それから協定書を綴じる表と裏に代表取締役印で割印をしていく。老眼鏡をはずし、印鑑を押す手には血管が浮きあがっていた。三労組の各委員長も同じ作業を繰り返す。捺印が終わるとそれを双方交換し、また該当箇所を印形で埋める。埋まったところで再び交換、双方の代理人が確認していく。次に覚書、同じ手順が繰り返される。
 その間、双方まったく無言。部屋には印鑑を押す音だけが響く。
 やがて、朱肉の色だけがやけに鮮やかに浮きあがった協定書と覚書が、双方の代表者の前に体裁を整えて並べられる。
 組合代表が発言を求める。
「今日、ここに労使双方は解決協定に調印するに至ったが、会社側はこの協定書の主旨を遵守し、この六年有余の教訓を踏まえて、二度とかかる組合弾圧や不当労働行為を繰り返さぬよう強く肝に命じておいてほしい」
 小保方社長がうなずく。
「続いて、光共闘議長から社長はじめ全役員に言いたいことがある」
 それまで右端にいた三角議長が、記者労委員長と席をかわり、中央で経営陣と向かい合う。特徴のある大きな目が正面から社長を見すえる。
「光共闘としては、三労組の就労後もはたして会社側が不当労働行為をはたらかないか厳しく注視している。とくに光共闘のなかから二名の支援労働者が刑事弾圧によりいまも公判中であるという事態を、われわれとしては見過ごすことはできない。刑事裁判はこれからも続く。協定書に調印したからといって光文社闘争のすべてが終わったわけではないのだ。今後、光共闘をどうするかは、就労後の三労組に対して会社側がどのような態度で臨むのかをじっくり見て決めていきたい」
 この発言を最後に、三労組側は席を立った。冒頭の社長発言からまだ一時間もたっていない。最初から最後まで、笑顔ひとつ交わされることなく、握手する光景もなかった。
 こうして、光文社闘争の調印団交は終了した。
 外に出ると、明るい秋の日差しの中に、人通りはなかった。皮肉にも、この日は「勤労感謝の日」に当たっていた。闘争開始以来、二、四一四日目のできごとである。
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